今だから『ペンタゴンペーパーズ』(2017)を観てから『大統領の陰謀』(1976)を観るべし

スピルバーグが監督した『ペンタゴンペーパーズ(The Post)』(2017)は70年代のベトナム戦争の報告書を巡る政府と新聞メディアの攻防。見方によってはワシントンポスト紙の女性社主の物語でもある。

『ペンタゴンペーパーズ』(2017)予告編


ここでの主人公はワシントンポストの女社主キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)と編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)を主軸とした正義とメディアのあり方を貫くメディア人たちの物語です。

そのペンタゴンペーパーズ事件の後に起こったウォーターゲート事件を扱った『大統領の陰謀』(1976)が面白い。同じワシントンポスト紙の若手記者ロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマンの二人が大統領に関わる選挙妨害、盗聴、収賄などの特ダネを追い求める物語だ。今日はその『大統領の陰謀』の話をしよう。


冒頭は無地の紙のアップ。そこに突然銃声のような断続的な音がして、タイプライターが文字が”June 1,1972″(1972年6月1日)と打刻する。タイプライターなんてみんなは知らないだろうけど、ワープロもない時代には綺麗に書く為の必需品だった。そしてテレビのブラウン管にニクソン大統領が訪中からの帰還と議会で歓迎して迎えられる姿が映し出される。一転して有名なウォーターゲートビル、民主党全国委員会本部オフィスへの侵入シーンが続く。実は『ペンタゴンペーパーズ(The Post)』のラストシーンは、このウォーターゲート事件の侵入シーンで終わっている。

気の利いたドラマスタイルを排除して長回しのカメラが静かに人物たちを追いかける。まるでドキュメンタリーでも見てるかのような錯覚さえ起こる。そして30分を経過して二人の若手記者が国会図書館で何千という貸し出しカードをチェックする真俯瞰のシーンでようやく音楽がわずかに流れる。その曲はすごく静かだけれどすごく印象的だ。

私はこの映画を当時名画座(封切後の古い映画を見せる。2~3本立てで300~500円くらいだった?)で、しかも立ち見で観た。駐車場での”ディープスロート”と呼ばれる内通者との会話シーンがとにかく暗くて、しかも字幕が読みづらくて話の筋がよく分からなかった記憶がある。

最近のリマスター版で見直すとだいぶ劇場公開時よりも明るく綺麗に仕上がっている。監督は社会派のアラン・J・パクラ監督。アカデミー8部門にノミネートされながら、この年の作品賞は『ロッキー』が受賞した。そのことも時代を象徴している気がする。

ワシントンポストのロバートレッドフォード演じるボブ・ウッドワードが”ディープスロート”と呼んだ密通者と会った駐車場 前には説明の看板が立っている

駐車場の場所 (グーグルマップ)
https://goo.gl/maps/ac9JNQvy5VC2

そしてもうひとつ『ペンタゴンペーパーズ』と『大統領の陰謀』で比べて欲しい部分がある。それは両方に出てくる共通の登場人物『ペンタゴンペーパーズ』ではトム・ハンクス演じる編集主幹のベン・ブラッドリーだ。『大統領の陰謀』ではジェイソン・ロバーズが演じている。それぞれ人物像の捉え方、俳優の演じ方が違うので印象が違うのが興味深い。ちなみにジェイソン・ロバーズはアカデミー助演男優賞を獲っている。


「伝説の編集者」ベン・ブラッドリー氏のキャリアが示す朝日新聞再生のヒント